A:改良兵器 アーチイータ
キミは、生物の定義を何だと考える?自己増殖か、あるいは進化か、生存本能か……?
そのすべてを兼ね備えた機械は、果たして生物と言えるのか?
ワタシが議論したいのは、古代アラグ時代に、宇宙より飛来して落着したという「オメガ」が生物なのか否かだ。
もしそうだとしたら、オメガは宇宙生物だということになる。
論点はふたつ、オメガは生物の条件を満たすのか。
そして、オメガは本当に宇宙の果てからやってきた存在なのか。これを証明するためにも、オメガの母星で作られた機械が必要だ!
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「キミは、生物の定義を何だと考える?」
あたしの顔先15cmくらいの所に顔を寄せて例の歴史生物学教授は言った。
「いきなり現れて何なんです?」
臨時収入があったために洋服を買いたいという相方に付き合い、結構な量買い込んだ相方がお会計を済ませている間に、先にレストランカフェ「ラストスタンド」で一人パフェを食べていたあたしの向かいにこの人はいきなり現れ、無言で座り、顔を寄せて、前置きなしにこういうことを言うのである。最早あたしはこの人を人格破綻者だと決めつけている。
あたしに問い返され、しばらく黙ってじっとしていた教授は顔を引っ込めた。
「生物の定義とは何だ。自己増殖か、あるいは進化か、生存本能か……?」
「さぁ?」
そんなことよりあたしはパフェが食べたい。このところこの教授に突き合わされウルティマトゥーレにこもりっきりだったのだ。体がしばらく断っていた「甘い物」を激しく欲している。
「自己増殖、進化、生存本能、それらすべてを兼ね備えた機械は、果たして生物だといえるのか?」
「すいませ~ん、パフェもう一つくださ~い」
「もしこれらを満たせば生物だと呼べるとしたら、オメガは宇宙生物だったという事になる」
「……。」
あたしは教授の話を店のBGMだと思い込むことに決めパフェに集中していた。
「キミはどう思う?」
「……。」
とろけるようなクリームの下に入っているシリアルの歯ごたえが堪らないのである。
と、突然教授がパフェを掻っ攫った。
「ちょっ、何すんのよ!」
「キミはどう思うかって聞いているのだよ。どうせこれは私が払った報酬で買ったものだろ」
あたしはぷーっと膨れて言った。
「知らないわよっ、そんなこと。生物って言うのは細胞の集合体でしょ。その細胞全部の生命活動を賄うために息をしたり血液を送ったり、食事をしたりしてるんでしょ。今のあたしは生命活動するためにパフェが必要なのっ」
あたしはそうまくしたてるとパフェを奪い取り食べ始めた。
「ふむ、肉体的要件か。それも一理ある。だが、その定義は星の環境や進化の過程によって変わってくるのでないだろうか」
「げっ」
洋服の包みを詰め込んだ紙袋をいくつも持った相方が少し離れた所で教授の姿を見て声を上げた。
教授は相方に軽く右手を上げた。
「何で居るの?」
相方は怪訝な顔であたしの隣に座りながら小さな声で聞く。
それはあたしが聞きたい。
「例えばだ、これは仮の話だが、キミのいう生命活動する肉体というものなんだが、キミは肉や骨等という固形物を前提に定義を立てた。だが、アーテリスという惑星のタガの外では必ずしもそれは固形物とは限らないのではないだろうか。…例えば、気体であったり、もっと漠然とエーテルであったり…。その形ないものが人工知能に宿ったとしたら?…やはり、検証が必要だな。よし、次の仕事だ」
教授は独りごちた。若干俯き加減にテーブルを見ていた顔をパッと上げていった。
「ちょっ…、昨日帰ってきたばっかりやん」
「検証なら持って帰ってきたレベルチーターでしなさいよ」
あたしと相方が抗議の声を上げた。
「あれは‥‥、うん、まぁ、あれとして」
教授はあからさまに誤魔化す。
「…あんた、また分解したのね」
「とにかく報酬は間違いなく払うんだ。しっかり頼むよ、キミたち」
教授はそういうとそそくさと席を立って姿を消した。